ハンガーを頭につけると首が回る?身体錯覚を楽しむ「ハンガー反射」とは

ハンガーを頭につけると勝手に首が回る「ハンガー反射」とは?科学的な仕組みやSNSで話題になった背景、ゴム手(ラバーハンド)錯覚など他の身体錯覚現象、遊び方や安全上の注意点を徹底解説します。

ハンガーを頭につけると首が勝手に回る現象「ハンガー反射」

最近SNSなどで「ハンガーを頭につけると首が勝手に回る」という不思議な現象が話題になっています。これは「ハンガー反射」と呼ばれる現象で、針金ハンガーなどを頭に挟んでこめかみ(側頭部)に圧力をかけると、自分の意志とは無関係に首がぐるっと回転してしまう現象です。

一見すると都市伝説か冗談のようですが、多くの人が実際に体験し、約85~95%もの高い確率で起こると報告されています。

ハンガー反射でなぜ首が動くのか?

ハンガー反射は単なる偶然ではなく実際の生理現象として起こっています。針金ハンガーで頭部を側面から軽く締め付けると、ハンガーが当たった部分の頭皮が引っ張られ、そこで感じる皮膚の圧迫刺激が首の筋肉に影響を与えるのです。

具体的には、ハンガーがこめかみ付近の神経を刺激し、脳が「圧迫を避けよう」と無意識に反応することで、圧迫された側に首を回してしまうと考えられます。いわば体の防御反応の一種であり、刺激から逃れるために頭が勝手に動いてしまうわけです。

研究者による仮説では、頭皮がずれる感覚があたかも頭に回転力が加わったように脳に錯覚させ、それが首を回す反射の引き金になっている可能性がありますi

ただし厳密な神経メカニズムはまだ完全には解明されておらず、痛みの回避反応やプラシーボの影響なども議論されましたが明確な裏付けは得られていません。それでも、実際に多くの人に起こる現象であることは実験で示されています。

例えば2015年の日本の研究では、被験者の約85.4%にハンガー反射が起き、ハンガーで圧迫した側に首が回旋することが確認されました。男性女性で差はなく、人類に広く見られる現象だと報告しています。

この高い再現率から、研究者らはハンガー反射を応用して、首の筋肉が緊張してしまう痙性斜頸(けいせいしゃけい)などの治療に役立てられないかとも検討しました。

実際2010年前後には、ハンガー反射を利用した頸部ジストニア(首の筋肉が収縮してしまう病気)の治療装具の研究報告もあります。

ハンガー反射が話題になった背景 – テレビ番組からSNSへ

ハンガー反射が広く知られるようになったきっかけは、日本のテレビ番組や雑誌でした。2003年放送のフジテレビ「トリビアの泉」で「ハンガーを頭にかぶると首が回る」というネタが紹介され、視聴者に強い驚きを与えました(番組内では実験で多くの大学生に現象が起こる様子が放送されています)。その後も「探偵!ナイトスクープ」(2005年)や映画『転々』(2007年)などで取り上げられ、知る人ぞ知る不思議現象として語られてきました。

しかし本格的にブームになったのは2020年代に入ってからです。TikTokやTwitterなどSNSで若者を中心に「#ハンガー反射チャレンジ」が流行し、「本当に首が回った!」「嘘だと思ったのにガチで動く」といった動画投稿が世界的に拡散しました。

特に2020~2022年頃には海外メディアでも「Hanger Reflex」として紹介され、米メンズヘルス誌が「TikTokで大バズりの新奇現象」と報じるなど、日本発の珍現象がグローバルな話題になりました。

日本でもコロナ禍の自粛期間中、「おうちで過ごし隊」と銘打ったハッシュタグのもとで家族や芸能人がハンガー反射を試す動画が次々投稿され、テレビの情報番組でも取り上げられています。こうしたSNSでの盛り上がりが再燃し、2024年には再び国内メディア記事で詳しく解説されるなど、ハンガー反射は一過性のネタを超えて広く知られる現象となりました。

ハンガー反射のやり方

ハンガー反射は自宅で手軽に試せる現象です。用意するものは針金製のハンガー1本(細い金属ハンガーがベストです)。以下の手順で安全にお試しください。

ハンガー反射のやり方

1.ハンガーを軽く変形させ、頭にかぶれるよう肩の部分をやや広げます。
※角が尖っている場合は怪我防止のためテープを巻くと安心です。

2.座った状態で、ハンガーを頭に深くかぶせます。左右のハンガーの端がこめかみ(前側頭部)に当たる位置になるよう調整しましょう。

3.ハンガーがずり落ちない程度に頭部を挟み込んだら、リラックスして目線は正面を向きます。力を抜き、首や肩の力みを取ってください。

4.しばらくすると、圧迫された側へゆっくりと首が回り始める感覚があるでしょう。
個人差はありますが、多くの人は数秒~数十秒で「動く!」と感じるようです。

安全上の注意
無理に首を回そうと力を入れる必要はありません。あくまで自然に任せてください。痛みを感じるほど強くハンガーで締め付けないようにしましょう。

長時間やりすぎると跡がついたり頭痛の原因にもなりますので、短時間でおこないましょう。

また、乗り物運転中や危険な場所では絶対に行わないでください。妊娠中や持病のある方、小さなお子さんが試す場合も十分注意し、必要なら医師に相談しましょう。

こうした注意を守れば、ハンガー反射は手軽で安全に楽しめる不思議体験です。「本当に動くの?」と半信半疑な家族や友人と一緒に試してみるのも盛り上がるでしょう。ただし周りに人や物がないことを確認してから行うようにしましょう。

ハンガー反射以外のユニークな身体錯覚

ハンガー反射のように、自分の身体感覚を錯覚させる不思議な現象は他にも存在します。科学者たちはこうした現象を利用して、人間の脳と身体の仕組みを研究してきましたし、一般の人が楽しめるサイエンス・トリックとしてSNSで話題になることもあります。この章では、ハンガー反射に負けず劣らず面白い身体錯覚現象をいくつか紹介しましょう。

①ゴム手の錯覚(ラバーハンド・イリュージョン)

「ゴム手(ラバーハンド)の錯覚」は、心理学で有名な身体所有感の錯覚実験です。目の前に自分の手そっくりのニセモノの手(例えばゴム手袋を人形の手の形にしたもの等)を置き、自分の本当の手は板などで隠します。協力者に頼んで、隠れた本物の手と見えているニセ手を同時に撫でてもらうと、だんだんニセの手がまるで自分の手の一部かのように感じてしまうのです。

実際、被験者は「偽物の手に触られているのに自分の手に触られている感覚がある」「まるで自分の手がそこにあるようだ」と報告があります。この錯覚をラバーハンド錯覚(Rubber Hand Illusion)と呼び、1998年に米国の研究で発表され有名になりました。錯覚が成立すると、目の前のニセ手を突然ハンマーで叩かれたときに自分の手を叩かれたようにビクッと反応したり、叩かれた痛みすら感じる人もいます。脳が「この見えている手は自分の手だ」と錯覚的に身体所有感を移してしまうのです。

このラバーハンド錯覚を応用した研究では、手以外にも足や顔、舌でも似た現象が起こせることが報告されています。例えばニセの足を用意して同様に撫でると足が自分のものに感じたり、マネキンの顔を撫でると自分の顔だと感じる「ラバーフェイス錯覚」、さらにはVR上の身体で自分が透明人間になったように感じる錯覚まで実験されています。

ラバーハンド錯覚は、人間の脳が複数の感覚情報の一致によって身体の一部を「自分のもの」と認識してしまうことを示す有名な例です。

②ブッダの耳錯覚 – 耳たぶが20cmに伸びる?!

「ブッダの耳錯覚」というユニークな現象も最近報告されました。道具いらずで誰でもすぐ試せるこの錯覚は、まるで自分の耳たぶがびよ~んと伸びたように感じる不思議な体験です。名古屋市立大の研究チームが2024年に発表し注目を集めました。

やり方は簡単:相手(体験者)は正面を向いてリラックス、協力者(実験者)は片手で体験者の耳たぶを軽くつまんで1cmほど下に引っ張る動作をします。同時にもう片方の手では、あたかも耳たぶに見えないゴム紐が付いているかのようなイメージで、その紐を下向きにずーっと50cmほど引き伸ばす仕草を見せます。つまり片手は実際に耳たぶに触れて少し引っ張り、もう一方の手は耳たぶから垂れた見えない耳を引っ張るジェスチャーをするのです。

これを繰り返すと体験者には自分の耳たぶがありえない長さまで伸び縮みしているような感覚が生じます。まるで大仏様や仏像の長い耳のようだということで「ブッダの耳錯覚」と命名されました。実際に耳たぶは伸びていないのに、視覚と触覚の組み合わせで脳が錯覚を起こす好例です。風船やスライム素材で耳を引っ張る別の方法でも同様の錯覚が得られることが確認されており、人によっては耳たぶが20cmも伸びたように感じたとの報告もあるそうです。

③浮き腕の錯覚(コーンスタム現象) – 手が勝手に上がる不思議

腕をだらんと下ろして力を抜いた状態で、誰かに両腕を横から抑えつけてもらいます。その状態で自分は腕を上げようとグッと力を入れ、10~30秒ほど押し合い続けてください。その後スッと抑えるのをやめるとあなたの腕は何もしていないのにスーッと勝手に持ち上がっていくでしょう。これが「浮き腕の錯覚」、正式にはコーンスタム現象と呼ばれるものです。

子供のころ「壁に手を押し付けて離すと腕が上がる遊び」を経験した方もいるかもしれません。これは筋肉の性質による生理的な現象で、腕を上げようとする信号が筋肉に残っているために起こります。力いっぱい筋肉を収縮させた後に急に解放すると、筋肉が自動的に縮む動きを続けてしまうのです。

浮き腕現象は幽霊に腕を引っ張られているような感覚がして面白いものですが、一種の反射現象であり錯覚というより筋肉の疲労反応とも言えます。それでも「自分の意志と無関係に体が動く」という意味で、ハンガー反射と似た驚きを味わえるでしょう。

③重心の錯覚・バランスの不思議

人間の重心(体のバランス位置)の錯覚に関するトリックもSNSでたびたび話題になります。代表例が「椅子持ち上げチャレンジ」です。壁に正面を向いてつま先を付け、2歩下がってから壁に90度腰を曲げて上半身を水平にします。そのまま椅子を胸に抱え、体を起こそうとすると女性はすっと起き上がれるのに男性は起き上がれないという不思議な違いが生じます。これは女性と男性で重心位置や身体の構造が異なるために起こる現象ですが、まるで一種の錯覚ゲームのようだと話題になりました。

他にも、四つん這いの姿勢から両肘を床につけて顎を手で支え、そのまま片腕ずつ背中に回す「重心チャレンジ」も有名です。こちらも女性はキープできるのに男性は前につんのめってしまうことが多いです。重心位置の微妙な差で成功不成功が決まるため、「自分はできると思ったのにできない!」という思い込みの錯覚を感じる面白いチャレンジと言えるでしょう。

また、物の重さの感じ方にも錯覚があります。サイズ-重さ錯覚といって、小さい物と大きい物で同じ重さでも小さい方が重く感じたり、重心の位置によって重さの感じ方が変わったりする現象です。例えば同じ500gのダンベルでも、重心が偏った形状のものは扱いづらく重く感じたりします。これは脳が視覚情報や過去の経験から「大きいものは重いはず」「持ちにくい形は重いはず」といった予測を立ててしまうために生じる錯覚です。

まとめ

「ハンガーを頭につけると首が勝手に動く」そんな奇妙な現象、信じられないという方も多いかもしれません。ですが、これは「ハンガー反射」と呼ばれる実際に多くの人が体験する身体の反応です。こめかみにハンガーが触れて圧迫されることで、脳が刺激を「避けよう」とする無意識の反射が働き、首が自然に動いてしまうのです。

テレビ番組やSNSをきっかけに話題となったこの現象は、ただの一発ネタではなく、医療や神経学の分野でも注目されてきました。そして、こうした身体錯覚はハンガー反射だけではありません。「ゴム手の錯覚」や「ブッダの耳錯覚」「浮き腕」など、私たちの感覚を混乱させるような不思議な体験は、意外と身近にあふれています。

それらの現象を楽しむことで、普段意識しない「脳と身体のつながり」を実感できるだけでなく、科学への興味も深まるでしょう。安全に配慮しながら、ぜひご家庭でも試してみてください。あなた自身の体が、どれほど不思議で面白い感覚を持っているのか、驚く体験になるかもしれません。

もしこの記事が面白いと感じたら、ぜひ家族や友人とシェアして、一緒に錯覚チャレンジに挑戦してみてください。

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